【ParasiteNOVA】第一話『始まりの時』

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                 ●比率 3:2:1

                 登場人物

  • ブルーグ・ナハトイェガー(♂):28歳。やや根暗。
  • イクス・アロンソ(♂):28歳。チャラい。
  • ソクラ(♀):恐らく20代半ば~後半。無感情でどことなく威圧的。
  • アネッタ・ウィリアム(♀):33歳。キャリアウーマン。
  • ブライアン・ルーソン(♂):22歳。ヒス男。
  • ナレーション(不問)
  • 操縦士(♂):一言のみ。ブライアンと被り。
  • メアリー(♀):9歳。出番が少ないのでアネッタと被り。

 

※詳しい説明はこちらへ→登場人物詳細

 

                   役表

【ParasiteNOVA】第一話『始まりの時』

ブルーグ♂:     
イクス♂:    
ソクラ♀:   
アネッタ&メアリー♀:     
ブライアン&操縦士♂:    
ナレ♂♀:   

http://urx.nu/akQ1

                   本編


ナレ:赤茶けた、広大な荒野。
   その上空に、一機の軍用搭乗機が姿を現す。
   機体の側面には虎をあしらったエンブレムが施され、
   その下には『ディーパ』と刻まれている。

   翼の両端に備わった、大きなプロペラの羽音とエンジン音。
   周辺ノイズに混じり、本部からの通信が届く。
   
   アネッタ・ウィリアム。
   ディーパ国防総省に属する、特殊部隊『WPC』の副総帥からだ。
   

アネッタ:「今回の任務は先月、

      考古学チームによって発見された遺跡内部の調査、
      及びパラサイトの駆除。
      未開の地だけあってどんな形態のパラサイトがいるかは不明。
      各自、細心の注意を払って行動するように。」


ナレ:堅苦しい雰囲気をぶち壊すかのように、
   余裕綽々といった様子で、
   褐色の肌をしたブロンドの美丈夫が応答する。


イクス:「任せとけって!
     俺達はディーパ軍の中でも、トップクラスの実績を上げてる
     精鋭部隊『WPC』なんだぜ?早々ヘマはしねぇよ。」

ソクラ:「気の緩みは時として大きな損失を招く。油断するな。」


ナレ:ニヤつく青年のその背後、
   表情を変えずに黒髪の女が、薄い唇を微かに動かし、
   淡々と呟いた。
   二人の声に反応し、通信機の向こう側にいるアネッタが
   呆れた様子で返事をする。


アネッタ:「ソクラの言う通りよ、イクス。
      最近の貴方は、

      以前にも増して任務を軽く見ているというか…。
      トップクラスの人間なら、それに恥じない行いをして頂戴。」

イクス:「言ってくれるねぇ~。ま、気の強い女は嫌いじゃないぜ?」


ナレ:イクスと呼ばれた男は、依然、態度を変えず。
   あくまでも茶化した様子で答えた。
   小さなため息を漏らすアネッタ。
   ふと、乗組員の反応がひとつ、足りないことに気がつく。


アネッタ:「…ところで、ブルーグは?
      さっきから反応がないけど…。」

ソクラ:「ブルーグならまだドレスルームに…。」

アネッタ:「(ため息)そろそろ目的地上空よ?

      イクス、ブルーグを呼んできて。」

イクス:「あいよ。」


ナレ:ドレスルーム。
   派遣先へ向かう戦闘員が着替えたり、
   武器の装着を行う部屋。
   
   鏡に映った自らの姿を、
   蔑むように見つめる青年の姿がある。
   
   ブルーグ・ナハトイェガー。
   ディーパ『WPC』戦闘員のリーダー。
   
   銀色の髪と、深紅の瞳。
   病的な白い肌。
  
   彼は自らのこの容姿に、強いコンプレックスを抱いていた。


ブルーグ:「気持ち悪い…。」

イクス:「おいおいおいおい。
     これから会いにいくのは、得体の知れないモンスターだぜ?
     なぁにカッコつけてんだよ、ブルーグさんよ。」


ナレ:いつの間にか背後に現れ、ニヤつくイクスに気づく。
   ブルーグは一瞬身構え、振り向くが、
   バツが悪そうに視線を逸らすと、強い口調で答える。


ブルーグ:「か、かっこつけてなんて…!」

イクス:「アネッタがお呼びだぜ?
     作戦の説明、聞いておかないと後が怖いぞ~?」


ナレ:スタンスを崩さないままのイクスに、
   自分の心の中を見透かされている気がして、
   ブルーグは、あえてイクスのペースに合わせ、
   軽目な返事をしようと努める。


ブルーグ:「あぁ、そうだな。」


ナレ:イクスと連れ合い、ブルーグは操縦席のある
   機体の前方に向かった。
   

ブルーグ:「すまない、アネッタ。待たせたな。」


ナレ:メンバーが全員揃った事を確認すると、
   アネッタは再び、口を開いた。


アネッタ:「作戦の内容はこれまで同様、何の問題もないわ。
      ただ、今回は考古学チームの発見した

     『古代の遺跡』という事で、
      向こうから一人同行する予定よ。」


ソクラ:「…一般人?」


ナレ:ブルーグは怪訝に訊ねる。


ブルーグ:「我々の存在は、トップシークレットじゃなかったのか?」


ナレ:見透かしていたのか、アネッタは、
   極力優しい口調で答えた。


アネッタ:「安心なさい。同行者はドクター川崎の助手よ。」

イクス:「あれ?川崎のオッサンって生物学者じゃなかったっけ?」

アネッタ:「バカね、彼は専門は生物学だけど、

      博士号は生物学以外にも多数取得してるのよ?」

イクス:「え…?あのオッサン…意外とスペック高いのな…。」

ソクラ:「それだけの天才だからこそ、

     ディーパ上層部の専属名誉博士なのだろう。」

ブルーグ:「まぁ、川崎先生の助手なら問題ないか。」


ナレ:ひと時の和やかな雰囲気は束の間、
   アネッタの口調は、再び堅苦しいものになった。


アネッタ:「とはいえ、

      あなた達のように特殊な訓練は受けていない民間人よ。
      彼が負傷しないように、気をつけてね。」

3人:「ラジャー」


ナレ:操縦士が、端的に告げる。


操縦士:「目的地上空到着。これより着陸態勢に入る。」

アネッタ:「ブルーグ、イクス、ソクラ。
      それじゃ、任せたわ。」


ナレ:砂埃を巻き上げるも、水平状態を保ちながら、
   3人を乗せた機体が、大地へと降り立つ。

   着陸した三人のもとに、近寄ってくる人影がひとつ。
   サファリルックに身を包んだ、
   少年とも青年とも言える白人男性が、
   辺りの砂埃に咳き込みながら、声をかけてきた。
   

ブライアン:「あのぉ…すいませーん。
       ディーパ…WPCの方達…ですか?」(咳を混じえて)


ナレ:事前に聞いていた人物であると確信したブルーグは、
   穏やかな口調で答えた。


ブルーグ:「あぁ、俺はブルーグ。
      このデカイのがイクス。…こっちがソクラだ。」

ブライアン:「よろしくお願いします。
       考古学者のブライアン・ルーソンです。」


ナレ:小生意気な微笑みを浮かべ、握手を求めるブライアン。
   

ブライアン:「イクスさん、よろしくお願いしま…」

イクス:「よろしくぅっ!」


ナレ:イクスは豪快にその手を掴んで、
   ブンブンと大きく振った。


ブライアン:「イタタタタッ…!」

イクス:「いやぁ、すまんすまん!ハッハッハッ!!」

ブライアン:「…いえいえ。」


ナレ:気を取り直し、ソクラに握手を求めるも、
   応じて貰えなかった事に困惑し、
   ブライアンは気まずそうに話を進める。


ブライアン:「…あー…えーっと。
       早速ですが、例の遺跡に案内しますね。」


ナレ:その背後で、ブルーグは差し出した手をそっと引っ込めた。

   遺跡へと向かう道中。
   ブライアンは楽しそうに、遺跡発掘までの軌跡を話していた。


ブライアン:「…あの時は本当にびっくりしました。
       それで、川崎先生の考古学チームの

       現場監督を任されましてね。
       (堪えきれず笑って)いやぁ…結果を出せて、

       本当によかった。」

ブルーグ:「ほう。その若さで任されるなんて…優秀なんだな。」


ナレ:謙遜しながらもまんざらではない様子で答えるブライアン。


ブライアン:「いやぁ、ディーパ上層部のシークレット部隊に任命される、
       あなた達の方が優秀じゃないですか。

       僕なんてまだまだ…。」

イクス:「(前のセリフに被さる様に)いやぁ、

     やっぱり俺たち優秀かなぁ?
     若くて、カッコよくて、強ーい!
     …まぁ、優秀と呼ばれるのは仕方のないこ…ゴフッ!」


ナレ:その瞬間、ソクラの肘鉄がイクスの脇腹を捉えた。


イクス:「うぐっ…ソクラァ…

     お前…自分の破壊力を考えて殴りやがれ…!」

ソクラ:「手加減はした。」

イクス:「全然加減されてねぇ…。」


ナレ:涙目で悶絶するイクスと、飄々とするソクラ。
   その様子を、呆気にとられた様子で見つめるブライアン。
   それに気がついたブルーグは、補足する様に口を開く。


ブルーグ:「あぁ、ソクラは肉弾戦を主に得意としているんでな。
      女と舐めてると痛い目にあうぞ?」

ブライアン:「そ、そーなんですか…いや…す、すごいっすね…。
       あ、あぁ!つきました。ここが遺跡の入口です!」


ナレ:そう言って、ブライアンが指し示す場所に目をやると、
   そこには地下へと続く、石で出来た階段があった。
   覗き込むも、中は暗くて見えない。
   

ブルーグ:「地下遺跡…か。」

ブライアン:「えぇ、入口を見つけるだけでも大変でしたよ。
       まだ内部構造はわからないので、
       案内とはいえ、僕も調査を兼ねているのですが。」

イクス:「へ~。
     それで同行してくるなんて、
     お前、意外と無鉄砲だな。」

ブライアン:「むぅ…無鉄砲って…。
       ほら…川崎先生のお知り合いとはいえ、

       戦闘部隊ですからね…。
       その、破壊されたりすると困るじゃないですか…。」

イクス:「見張りかよ!?」


ナレ:気まずそうながらも、ズバリ言ってのけるブライアン。
   ブルーグは、呆れた様子で答たえる。


ブルーグ:「…まぁ、そんなことだろうとは思った。
      なるべく遺跡を傷つけないように行動しよう。
      だが、万が一の時は…覚悟しておいてくれ。」

ブライアン:「うっ…うぇぇ?…は、はい。」


ナレ:緊迫した様子で、持参したランタンに火を点けると、
   先導するように数段降り、振り向くブライアン。
   ブルーグの警鐘に少し怖気づいたか、先程よりは
   下手(したて)に出る様な物言いだが、
   あくまで『遺跡>(だいなり)』の姿勢は崩さない。


ブライアン:「た、頼みますよ?

       出来る限り壊さないようにしてくださいね!」

イクス:「わ~ってる、わ~ってるって!   

     あんまりしつこく言うとわざと…」

ブライアン:「(静かに怒りを込めて)イクスさん。」

イクス:「いやぁ、冗談だって…。」

ソクラ:「遊んでる暇はない。パラサイトの反応がある。」


ナレ:レーダーを見つめていたソクラの言葉で、
   場の空気が一瞬で凍る。
   

ブルーグ:「戦闘準備に入れ。」


ナレ:ブルーグの指示で、
   携えていた武器をそれぞれに構える。
   ブライアンは相変わらず疑心暗鬼な姿勢を見せる。


ブライアン:「うわわわわ…本当に…お願いしますよぉ?」

ソクラ:「構造から空間を計算して動く、問題はない。」


ナレ:コンパクトな特殊警棒のソクラを尻目に


イクス:「あぁ~…俺は保証できねぇぞ?
     なんせ俺の相棒はこのクレイモア、だかんな!」


ナレ:こちらの武器はその図体同様、無駄にでかい。


ブライアン:「あぁ、不安です…不安でいっぱいです…。
       あ、ブルーグさんもそういえば…素手…ですよね?
       遺跡壊すような事なんて…。」

ブルーグ:「残念ながら…俺の武器は…これだ。」


ナレ:ブライアンの期待は大きく裏切られた。
   黒いトレンチの中から現れたのは、
   鈍色に光る二丁のベレッタだった。


ブライアン:「二丁拳銃?! 
       うわぁははは…

       完全に『壊すフラグ』立ってるじゃないですかぁ…。」

ブルーグ:「…くるぞ!」


ナレ:しんと静まり返る闇の中。
   遺跡の奥へ向かう通路から、微かな羽音が聞こえ始める。
   それは徐々に大きさを増し、こちらへ近づいてくる。
   
   そして、暗がりからようやく、その羽音の主たちが
   数十匹単位で押し寄せて来るのが見えた。
   

ブライアン:「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」


ナレ:ブライアンの絶叫が遺跡に響き渡る。


ブルーグ:「命をとるか、遺跡をとるか…決めておけ。」

ブライアン:「…い、命でぇぇ!!!!!」

ブルーグ:「…いい判断だ。」


ナレ:涙目で震えるブライアンに、
   ブルーグは静かな微笑みを向ける。
   そして、構えていた二丁のベレッタのセーフティを外すと、
   迫り来る虫達に標準を合わせ、引き金を引いた。

   それを皮切りに、イクスとソクラもそれぞれの武器を手に
   徒党を組んで襲いかかる群れに、身を投ずる。


イクス:「それじゃ、思いっきり暴れてやりますかぁっ!!」

ソクラ:「無駄な動きはいらないぞ、イクス。」

イクス:「わ~ってる、わ~てるってぇ~!
     っしゃあ、行くぞオラァァァァアアアアアアッ!!!」

ソクラ:「…フッ!」


ナレ:イクスもソクラも、単体のみ相手にする考えは毛頭ないらしく、
   固まって襲いかかってくる敵は、まとめて沈めている。
   
   大きなクレイモアならば、それもまだ納得できるが、
   決して大型ではないソクラのその体で、それを成し遂げる事は、
   初めて目の当たりにするブライアンにとっては異質でしかない。



ブライアン:「あ、あんな化け物の群れを蹴り一発で…?!
       ど、どうなってんですか、あの人の体は!」

ブルーグ:「…少し静かにしていてくれ。駆除に集中できないだろ。」

ブライアン:「あ、す、すみません。」


ナレ:ブライアンは仕方なく、おずおずと柱の陰に隠れた。


イクス:「おらっ!ったぁ!!オラァァァァアア!!!」


ナレ:再びレーダーにパラサイト反応が表れる。


ソクラ:「ブルーグ、右から新たなパラサイト反応だ。」

ブルーグ:「了解。イクス、ここは任せたぞ。」

イクス:「任せとけっ!」


ナレ:イクスにその場を任せ、ブルーグはソクラを連れ立って  
   新たなパラサイト反応があった場所へ赴く。
   
   ソクラの言葉通り、新たな群れが向かってくるのを確認すると、
   ブルーグは先程までの構えとは違った体勢をとる。
   まるで拳法の構えを思わせるポーズで、前を見据えた。


ブルーグ:「格闘モードに移行する。
      ソクラ、アシスト頼むぞ。」

ソクラ:「ラジャー」


ナレ:ソクラの返事を聞くと、ブルーグは躊躇いなく
   パラサイトの団塊に身を預けた。
   その様子を茫然と見つめるブライアン。


ブライアン:「ガ、ガンナーなのに突っ込むなんて…い、一体何を…。」


ナレ:その呟くような言葉に気づいたイクスが、
   敵を薙ぎ払いながらも、答える。


イクス:「…はっ!ブルーグはな…っ!
     ただの銃使いじゃねぇ。ガン=カタって知ってっか?」

ブライアン:「ガン…カタ…?」

イクス:「よっ!…そ、ガン=カタ。
     敵の眼前に姿を晒しつつ、

     体術と銃撃を組み合わせて戦う、銃を使った格闘の形。
     それが…っと、危ねぇ!…ガン=カタだ。
     近距離で敵を捌く事で、流れ弾に当たる事を最小限に抑える。」

ブライアン:「え?でも相手はモンスターだし…銃は使わないんじゃ?」

イクス:「剣先で敵の攻撃薙ぎ払って身を守るだろ?…っと、オラァ!!
     …銃口でそれをしてるんだよ、アイツは。…たぁっ!」

ブライアン:「なるほど…。」


ナレ:イクスの説明に頷きながら、ブライアンはブルーグを遠目に見た。
   確かに体術がメインとなり、銃撃はあくまで補助的な役割を
   果たしている様に思える。
   
   ソクラのアシストもあり、駆除はあっという間に終わった。
   二人は、武器を元の位置に戻し、イクス達の元へと歩み寄る。


ブルーグ:「説明ご苦労さん。」

イクス:「おう、終わったかぁ?」

ソクラ:「パラサイト反応は…とりあえず今のところはない。
     先へ進むぞ。」

イクス:「よし、終わったんなら次行こうぜ。」


ナレ:慣れた様子の三人を他所目に、
   ブライアンは呆気にとられた様子で、その場にしばらく留まった。
   

ブライアン:「な、なんか…噂以上に凄い人たちだな…。
       あれだけ暴れて…遺跡が無傷なんて…。」


ナレ:三人の後を追い、遺跡の奥へ進むブライアン。
   先へ進んでいたはずの三人が、困った様子で立ち止まっている。

   
   壁というよりは石版の様な物が、行く手を阻んでいる。

   人の手で簡単に動かせるような代物ではなさそうだ。


イクス:「行き止まりじゃねぇか…。
     どうする?ブルーグ。」

ブルーグ:「さて、どうしたもんか。
      勝手に壊すと、誰かさんがうるさいからな…。」


ナレ:チラリと、ブライアンを横目にする。


ブライアン:「え?…ぼ、僕ですか?
       これは…一種のシャッターみたいなものですね。
       壊さなくては先に進めませんし…。
       …あ…う…い、いいでしょう。
       …こ、ここは目を…つぶります。」

イクス:「…む、無理してなぁい?」

ブライアン:「してません。さぁ、思いっきりやっちゃってください。」


ナレ:ブライアンの口調から、無理をしているのは明白だったが、
   壊さなくては前に進めないのも事実。
   ブルーグは頷いて、ソクラに目配せをする。


ソクラ:「はぁぁぁっ!」


ナレ:迷いのない、美しい正拳突き。
   歴史的遺産と思われる大きな石版は、
   たった一人の手で、一瞬のうちに微塵と化した。


ブライアン:「え?…えぇっ?!

       なんでこんな分厚い石版…もはや岩ですよ?!
       どうしてそんな軽々しく破壊できるんですかあなたは!」

ソクラ:「説明するのは嫌いだ。」


ナレ:動揺を隠せないブライアンとは対照的に、
   ソクラは冷たく視線を逸らす。
   

イクス:「こいつのバカ力は俺たちでもよくわからねぇんだよ。

     な、ブルーグ。」

ブルーグ:「まぁ、世の中には理解できない事が沢山ある。
      パラサイトの存在なんかもそうだろ?
      気にしてたら何も出来ない。」

ブライアン:「そ、そういうもんなのかな…(苦笑い)。」


ナレ:再び、ソクラの視線がレーダーに向けられる。


ソクラ:「…この先に、大きなパラサイト反応を確認。」

イクス:「んあ?さっきまで無反応だったじゃないか。」

ブルーグ:「どうやら、この石版が反応を遮断していたようだな…。
      大きなって事はまた群れか?」

ソクラ:「いや…これはどうやら個体の反応のようだ。」

ブライアン:「ひぃぃっ!?

       つまり…デカイのがいるってことですかぁ!?」

ブルーグ:「デカかろうが小さかろうが、そこは問題じゃない。

      さっさと駆除しよう。」


ナレ:相変わらずのブライアンを引き連れ、
   三人は遺跡の最深部と思わしき部屋を目指して、歩を進める。

   そして、レーダーの指し示す場所へと辿り着く。
   所狭しと張り巡らされた細かな根や枝が、

   部屋全体を覆い尽くしている。
   それだけではない。まるで動脈の様に伸縮運動をしているのだ。
   その中心部に蠢く、一本の大樹。
   

ソクラ:「…巨木型パラサイト…通称トレント。」

ブルーグ:「なんてことない相手だな。それじゃ、早速…。」


ナレ:武器を取り出し、構えるブルーグとソクラ。
   イクスは違和感を覚え、二人を止めた。


イクス:「ちょ、ちょっと待て!
     あの…パラサイトの真ん中にあるのはなんだ?」

ブルーグ:「なんだって…今更聞くなよ。
      パラサイトの宿り場、コアだろう?」

イクス:「いや…だから、その…コアの中に…なんか、見えないか?」

ソクラ:「…パラサイトではない生命反応、確認。」

ブルーグ:「何…?」


ナレ:ソクラの言葉に、ようやく事態の深刻さに気がつく。
   よくよく目を凝らし、パラサイトの中心部に埋め込まれた
   漆黒の宝石を見ると、確かに見慣れない『何か』がある。
   大きさ、形的にそれに違いはないが、
   ブルーグは未だ、現実として受け止めきれていない。


ブルーグ:「…子供?
      どうしてこんな所に…。」


ナレ:そう、子供。
   
   小さな青い髪の少女が、今にも取り込まれそうな様子で、
   囚われているのだ。
   茫然とするブルーグに、痺れを切らしたイクスが呼びかける。



イクス:「どうすんだよ!ブルーグ。」

ブルーグ:「どうするって言われても…。」

ソクラ:「あれだけの侵食をされてはもう手遅れだろう。
     ならば、パラサイトもろとも…。」


ナレ:非情だが、ソクラの言葉が正しい。
   今まで、パラサイトに取り込まれ、
   無事でいた人間など見たことがない。
   
   ブルーグが照準を少女に向けた瞬間―。


メアリー:「…た…すけ…て…。」

ブルーグ:「…え?」


ナレ:何かの間違いだと、心に言い聞かせた。
   しかし…


メアリー:「…ママ…たすけ…て…」


ナレ:間違いない。意識はある。
   

イクス:「お、おい。あの子喋ったぞ!」

ソクラ:「喋ったからといって正常だとは…。」


ナレ:慌てるイクス、冷静に返すソクラ。
   確かにソクラの言うことが正しい。


メアリー:「だ…れ…そこに…いるの…。
      たす…け…て…」


ナレ:任務中、感情的になる等…言語道断。
   わかっているはずだ…だが。


イクス:「ちょ…あぁもうっ!
     ブルーグ!なんとか言ってくれ!!」

ブルーグ:「な、なんで俺に…」


ナレ:イクスの言葉に揺らぐ。


イクス:「ディーパWPC隊員のリーダーはお前だぞ!」

ブルーグ:「こんな時だけ、リーダー扱いかよ。」

ソクラ:「私もリーダーの命令に従う。」

ブルーグ:「お前ら…。」


ナレ:答えを迫られるも、まだ決断を下せずにいるブルーグ。
   その耳に、再びか細い声が聞こえた。
   
   弱々しくも、こびりつく、悲痛な声。



メアリー:「たす…けて…。」


【To Be Continued...】